幸せは飢えた者のみが知る宝である。
瞬間は短命な者のみが感じる刹那である。
幻は現のみが見る夢である。
[帯刀は鞘の檻の中]
「…滞りなく。」
任務の進み具合を聞かれ、ただそう答えた。
黒い髪に覗く切れ長の瞳が淡々とこちらを見つめている。
射貫かれそうだ。
白蘭は彼の目を見るといつもそう思う。
自身もかなり切れ長の目で、正直睨みを利かせたら誰もが竦み上がるような目付きだ。
それが嫌でいつも笑っているように心掛けているのだから。
ただ、彼は何かが違うのだ。
ミルフィオーレファミリー、ブラックスペル、切っての剣豪。
コードネーム、幻騎士。
「そ、ご苦労様。ところで…」
幻騎士が素早く立ち去ろうと床に着いて折った膝を伸ばしかけたところで白蘭が余談を挟んだ。
「幻騎士くんは綺麗な目をしているね。」
は?
唐突な白蘭の言葉に我ながらとんでもなく間抜けな声を上げてしまった。
そうは思っても、その時幻騎士は半開きの口元で白蘭の次の言葉を待つ以外の事が出来なかった。
実の所、白蘭自身も自ら発した言葉に少し驚いていた。
それは幻のような切っ先の刃の輝き。
煌めいては語る事のない冷静な瞳の奥に美しい気高さを湛えながら、
誰かの作った鞘の中で一生を終える帯刀。
その誰かが自分であったなら良いと白蘭は思う。
その瞳の本当の美しさを、自分の鞘の檻に閉じ込めて、
そっとひそやかな鑑賞と幸福と侵略がその身を滅ぼすまで、
この刃が見せる幻に夢を見れたならそれで良い…
かもしれない、っと。
「だから、あんまり他の人に見せちゃ駄目だよ?」
無茶苦茶な事を言う白蘭に幻騎士は困った様子で黙り込む。
「見透かされないように気を付けてね。」
そういって微笑む白蘭。
「…はい。」
とりあえずで返事をする幻騎士。
交差する視線と視線。
狭い世界の現に見え隠れする気高き帯刀の光に見る、白昼夢のような甘いまどろみ。
言葉の綾取りに困惑する瞳の揺らぎも愛しいが…
…手にするにはまだ早い。
end.