それは儚く脆く


けれど強固な契約の楔



絡まり絡まれ空回り


結ばれた縁は解ける事なく



凝り固まる







絲轂














運命の歯車に捕われて、出来上がったこの繭を俺は抜け出す事が出来ない。

口から白い美しい糸を吐く彼の人はそんな脆い物で俺を縛り上げる。


些細な束縛の糸が束になって、気付けば身動きが取れなくなっていた。


貴方はそんな物で俺をつなぎ止める。



「びゃく…らん…さま…」


辛うじて逃げ延びたが、最早、どんな顔で彼の人に会えば良いのか、一層死んだ方が良かったのではないかとさえ思った。

頭が痛い。

腕も足も、自分の体が自分の物では無いようにすら感じる。


ただ、目の前の暗闇に光る姿だけを目指して手を伸ばせば、届きそうで届かない。

自身を包む繭に阻まれて身動きが取れない。


貴方が与えた糸に蝕まれて行く。


「お帰り、幻ちゃん…酷い有様だね。」


闇と光の向こうで貴方の声がする。


びゃくらんさま…もうしわけありません…」


口も肺も自らの血で満たされて生温い。

しかし溢れる言葉と血を止める手立てが俺にはない。


「申し訳ありません…命を果たす事もなく、戻って来てしまいました…」


愚かだ。


「申し訳ありません…」


許しを請う事も出来ない。











「うん、ご苦労様。」


遠くで貴方の声が響く。


「もう良いから傷を診せに行っておいで。」


それは幻聴としか思えぬ程、恐ろしく優しい声だった。


「白蘭様…」


貴方はまた、そうして言葉で俺を捕らえ、この繭を厚くする糸を吐き掛ける。

貴方の束縛はそんな脆弱で脆くたやすいのに、自ら解くことは出来ない、契約の楔。


糸が傷を繕うように、貴方の視線が絡み付く。



「壊れたら直せば良いだ、直せなくなるまで何度も壊して直して壊す…簡単には殺さないよ…」


貴方の指がこの頬を撫で、傷に触れて痛みが走る。

痛みが走るとようやく全身を燃えるような傷の熱が追い掛けてきた。

恐ろしく冷たかった体が息を吹き返すように、涙が溢れる程に熱く鼓動が波打っている。


「白蘭さま…」


貴方がいなければこの身体は息の仕方さえ忘れてしまう。

貴方の作ったこの拘束の繭の中で、糸を紡ぎ続け、俺は終わらない抱擁を願っている。



「慈悲を……」












請い願う、請い焦がれる、廻り続ける絲轂。

縫った傷の癒えぬまま、再び繭で眠りを貪る。



目覚めてしまえばそこは怖い物ばかりだと彼の人は囁いて、この耳を蔓延る。



切れる事のない白い糸に縋るこの身を弄ぶなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうか永久の輪廻に置き去って。












END.