色は儚く褪せて消え
それを隠す為に鬼はその身を紅に染める
そうして幾年過ぎて世の憂いを知る頃には皆偽りとせせら笑う鴉だけを肩に乗せて佇む
それでも身に降る雨は止まない
熱いあの夜と誰かを恋しがるこの想いが偽りではないと知っているから
雨にも洗えない汚れた紅色が教えている
[罪深きは身に宿る血潮と知りぬ]
本当に信じたものはこの体と剣だけである。
誰にも心開かず、
誰にも頼らず、
誰にも近づく事を許さなかった。
オレはそうして生きてきた。
それはこの世界で失うものの多さと悲しみに絶望する事に疲れたからだった。
誰かがそれは『孤独』だと言った。
だが、それを苦痛に思った事はない。
繋がりを失う事の方がもっと辛いと知っていたから…
それはかつてオレが失った大切なものに随伴する。
彼に会いたい。
長い時間がオレを石にして行くように、体が言うことを聞かなくなり、剣が重たくなってようやく、
口にして叫びたい程だった言葉が脳裏から顔を出した。
それはあまりに遅かった。
それはあまりに愚かな願いだった。
それはあまりに漠然とした夢のようだった。
だが、皮膚に刻まれた深い傷も忘れてしまう程、
オレは聞き分けのない子供のようにひたすらに願ってしまった。
γに会いたい。
「γ…お前に会いたい…」
彼と決別してから、オレはからっぽだった。
自分の持っていた全ての為に自分を犠牲にして、彼と分けた絆を捨て、
自分を知る全ての前から消えたのは今から何十年と前の話しになる。
取り戻すにはあまりに時間が経ちすぎた。
あれから噂に聞くのは彼の朗報ばかり、
ファミリーの繁栄と拡大、彼が得た富と権力は彼を幸せにした事だろう。
結婚と子供の誕生、数えればその子の成人もとうに過ぎた事だろう。
オレには何一つ与えられないものばかり、どんなに時間を掛けたとしても、けして与える事の出来ない幸福。
そんな知らせを風の便りに聞く度にオレは色んなものを失った。
心が死んで行くのを感じた。
冷えて、固くなって、風の中に置き去りにされたようだった。
「『愛して』いたんだ、」
それはいつか、彼が言った言葉。
『愛している』
オレが拒絶した頼りない言葉。
今更になって口にしても誰にも届かないと知っているのに、
こうして何もせずにいると胸に込み上げて口ずさんでしまう。
満足に動かない体で、粗末な部屋の出窓から見上げるイタリアの空。
それだけがオレの世界の全てのようであって、もう何も求める事を止めてしまいたくなった。
「今日も夕陽が紅い…」
その紅はγと浴びた血の色のようで、掻きむしった互いの体に流れる血潮の色である。
古びた体に蘇る記憶が今も胸を締め付け、高鳴らせる。
手を延ばしても取る者は何もない。
今は何も、
閉じていた瞳を開けると日は沈みきっていた。
感慨に更けるうちにうたた寝してしまったのか、開け放った窓から吹き込む風の寒さに目を覚ます。
「いつになったら終わるのだろう…」
こうして生き恥を曝すだけの生活、覇気のない日常、彼を思い出すだけ…
こんなに悲しい景色も、彼が居たなら美しかったかもしれない、
そう思った途端に目頭が熱くなって濁った涙が溢れ出す。
「死にたい…」
ずっと願っていた言葉を紡いだ、
その時だった。
「それは困るぜ、幻騎士。」
部屋の粗末な扉の裏から誰かの声がする。
「お前を殺すのは俺だろ?約束したじゃねぇか、」
恐る恐る振り返る。
「あ…」
闇に紛れて浮かび上がる鋭い瞳。
「悪い、遅くなったな…」
金だった髪は白くなり、体付きもいくらか頼りなくなったが、それは紛れも無く夢に見た待ち人であった。
「ガンマ…」
気付けばオレは不自由な足を引きずって、彼の方へ駆け出していた。
「γっ!」
倒れるように胸に飛び込むとその腕がしっかりとこの体を支える。
「酷い有様だな、無茶するからだ。こんなになるまで体を酷使して…」
その腕の暖かさに痩せた肩が震える。
「γ…」
何か言いたいのに言葉が喉に支えて出てこない、聞きたい事はどれも薄っぺらな事ばかり、
縋る手だけが何か伝えようと必死にその袂を掴んでいた。
「ずっと探してたんだぜ?ずっと、ずっとお前の居所を掴もうと方々駆けずり回って…」
γがシワと傷の増えた手でオレの頭を撫でる。
「気付いたらお互いこんな年になっちまった…本当にすまなかったな。」
そういって苦笑する顔に浮かぶ笑いジワが憎い。
「まったくだ…いつになったら迎えに来るのかと待っていたのに、お前ときたら…」
やっと吐き出した言葉はこんな憎まれ口。
「悪かったよ、」
もっと言いたい事は沢山あるはずなのに。
「お前は酷い…」
オレがそういうと思い当たる節があるγは眉間を寄せて苦笑した。
「あぁ、解ってるさ、」
「酷い…」
「幻騎士…」
一瞬、沈黙が走った後、γはオレを抱く腕に力を込めた。
「だから、全部棄ててきた、お前が過去にそうしたように、全部棄ててお前に会いに来たんだ。」
その言葉にハッと顔を上げるといつになく真剣な表情のγがこちらを見詰めている。
「もう何もいらない、だから、残りの時間を一緒に過ごそう、」
俺の体は驚きすぎて膝が崩れてしまいそうだった。
「もう、絶対離したりしねぇ、傍に居てくれ、幻騎士。」
それはあまりにも遅すぎた告白。
「…オレの余生がどれだけ残っているか解らないぞ?」
「あぁ、」
「オレはお前より先に死ぬだろう、それでも良いのか?」
「あぁ、」
曇りのない返事がオレの中の蟠りを溶かして行く、凍っていた血液が再び体を駆け巡る。
「無くした時間は帰って来ないが、死ぬまでの思い出作るくらいの時間はあるだろ?」
羽を血に染めた二羽の鴉が宿り木に寄り添う。
その枝が鬼の腕と知りながら、雨に打たれながら、
それでも一緒に鳴けるなら、
この身を流れる血潮の流れに身を委ね、汚れたままで眠ってしまっても構わない。
誰かを愛したその時から、この血は既に汚れきっているのだから。
どかう、枝の腐り落ちるまで、
永久に。
End.
SPECIAL THANKS 4000Hit!
To 月詠 様
POSTSCRIPT.
はい、わけ解らん小説書いて押し付けて逃げる、
其れが管理人のやり口ですw(最低だよアンタw)
何だかんだ、これも書いて置きたかった『未来編のその後』の話。
本編ですら焼結していないのに先んじて書く、チャレンジ精神だけは一人前w
ただし、
痛さも百倍wwwwww
えと、
キリ番のリクエストが『γ×幻騎士』っという指定を頂いたので、
ここぞとばかりにこんな物書いてしまいました;;;;
書いている内に自分で悲しくなってきた、何度も挫折しそうになりましたが、
なんとか書き上げました;
何があっても、最終的にはこの2人でハッピーエンドを迎えて欲しい、
そんな気持ちで今はいっぱいいっぱいです←
キリ番ゲッターの月詠様のみ、お持ち帰り可です。
こんなで宜しければお持ち帰りください;