欲しくて、
欲しくて、
欲し続けた。
君の抜け殻は霞の臭いがしていた。
それは仙人の召しものと聞く、
純心故の脆き紗。
誰もがそれを欲するという。
憎虐の匣
「私に…ですか…」
「そう、もう僕はいらないからさ…君の好きなようにすると良いよ。」
白蘭にそういわれて桔梗は珍しく困惑の表情を浮かべた。
いつも冷静にして優美な彼を悩ます物はこの世界にはそう多くない。
「彼が治療を受けている内に決めちゃった方が良いよ、」
そういうと白蘭は手をヒラヒラと振ってその場から姿を消した。
『幻騎士の処分を君に任せたいんだけど。』
「あの方は、そんな事を言ったのか?」
メローネ基地から酷い怪我を負って帰ってきた話題の彼は現在、
集中治療室でかなり大掛かりな手術の最中である。
失った左腕を人造の物とつぎはぎ、
額からその顔面を走る傷は眼球をギリギリに掠めているため、非常に丁寧に縫合されていく。
「あ〜ありゃぁ…左足も取り替えないとダメだな。」
その様子をマジックミラー越しに見ているのは完全に興味本意の柘榴と、
いくらか複雑な表情を浮かべた桔梗の二人。
「で、お前は何て応えたんだよ。」
彼の処遇についての話を引き戻して柘榴が問う。
柘榴は桔梗に問いながらも視線は彼のつぎはぎ手術に釘付けで、まるでそちらを見ようとはしなかった。
「承知しました、っとだけ答えましたけどね…あれだけ重用していた幻騎士を、あの方は私に任せると…」
桔梗は正直どうしたら良いのか計りかねた。
聡い彼が困惑するのも無理はない、
その任された者は白蘭がかつて自分達に自慢げに見せびらかした程のお気に入り、
神に等しいその人が『僕の可愛い飼い猫』と称した黒毛の獣なのだから。
「どうするのが賢いのでしょうか。」
桔梗は体中を縫い目に蝕まれて行く彼を見て溜息を零した。
「…情でも沸いたか?」
柘榴がその様子に呆れたように疑問を投げ掛ける。
しかし、桔梗は笑って答えた。
「ハハン…まさか。」
まさか、
それは今更だ。
それは今から2年ばかり前の話になる。
ミルフィオーレの本部とはまったく接触のない真六弔花のアジトに久々に白蘭が訪れた時の事だ。
そしてその傍らには特殊耐炎製のトランク。
「開けてご覧よ。」
アジトの地下に設けた白蘭の部屋に呼ばれた桔梗と柘榴は目の前に置かれたトランクに言われるがまま手を掛けた。
「一度見せてあげようと思っていたんだ、」
そういって白蘭は不敵に笑う。
「あ…」
何重にもなった鍵を開け、重厚な音を立てて開いたトランクの中には思いもよらないモノが入っていた。
「白蘭様…これは…」
その異様な光景に思わず声を出した桔梗、
その隣では柘榴が興味津々でトランクの中を不躾に除き込んでいる。
「ふふ、可愛いでしょ?僕の懐刀、って言えば解るかな?」
白蘭の懐刀、その通り名はミルフィオーレの人間なら誰でも耳にした事がある。
「では、これが…幻騎士…」
しかし、今、目の前にいる当人は噂の戦果とは似つかわしくない状態、
裸同然の姿で全身を拘束され、耳と口を塞がれ、瞳は虚ろにトランクの縁を見つめている。
しかし、そんな姿であっても解る、
その肉体の一筋一筋鍛え抜かれた上質さ、柔らかな間接、それを覆う白磁の肌、対称的に冴え渡る黒髪。
それは可愛いなどとはとても言い得ない、一匹の美しい獣である。
「そう、幻騎士…この世で唯一無二の魔性と純心を持つ男だよ。」
白蘭はそういうと彼の頭を撫でるように小突いて彼の注意を引くように声を掛けた。
「幻ちゃん、幻ちゃん、新しいお友達だよ?」
虚ろだった瞳をゆっくりと見開き、彼は目の前の桔梗と柘榴に視線を向ける。
その瞳は今まで見た事もないような、鮮やかな若葉色。
それは神秘的に瞬いて、人の心を惑わす月の光か、欲を駆り立てる宝玉を思わせる魔眼である。
「へぇ…これが貴方の愛刀か…わざわざ見せびらかしに来たんですか?」
そういって真っ先に手を伸ばしたのは柘榴だった。
柘榴は無抵抗な幻騎士の髪の毛を掴み上げ、しげしげとその顔を観察して、ニヤリと笑った。
「良い趣味してますね、相変わらず。」
柘榴が掴んだ手を離すと鈍い音を立ててその頭とトランクの底がぶつかった。
「ん、」
微かに零れた声、身じろぐ媚態、箱詰めにされた羞恥と蠱惑が香り立つ。
「そう、自慢しに来たんだけど…良かったら貸してあげようか?」
すっかり彼を気に入った様子の柘榴に白蘭がいう。
「これは僕の玩具だから…」
それは哀れとも、幸福とも着かない箱の中で育まれた一匹の獣。
檻の快楽と悲しみを糧に生きている様だった。
まるでその中以外は何も知らないかのように。
「幻騎士…」
手術を終えたばかりで麻酔が掛かったまま、眠る彼に桔梗は話し掛ける。
「貴方はまだ戦いたいですか?あの方のために、刃を振るいますか?」
勿論答えは帰って来ない。
「貴方の望みは何ですか?」
彼は目の前、手を伸ばせば届くのに、桔梗にはそれすら酷く遠くに感じられた。
会う度に魂が枯渇していく彼を、肉体が朽ちていく様を、見る度に胸がざわめく。
自分の内なる残虐と、愛憎が増殖して腹の奥底で燻っている。
『情でも沸いたか?』
「ハハン…そんなモノではないですよ…」
桔梗は彼が憎かった。
汚されようとも美しく、辱められようとも気高く、疎まれようとも純心な彼が、
憎く、そして憎い程に愛しかった。
「貴方が生きたいと望んでくれなければ、私は貴方を殺してしまう…」
彼が眠るベッドに手を掛け、息が掛かるまでその額に顔を寄せて桔梗は語る。
語り掛けても答えの返って来ない、抜け殻のような寝顔に。
「あの方が愛した貴方…私は貴方が欲しかった…」
そうして手に入ったなら、あの箱の中で一生飼い続けて、腐り溶けるまで眺めていたかった。
「だから言ってください…生きたいと、そうでなければ、私は…この手で…」
今にも触れそうな距離で彼の喉元に手を伸ばす桔梗。
その指先は苦しみに奮えていた。
「……て、」
不意に、その指先の唇が何か囁いた。
桔梗は少し驚いて目を見張る。
あれだけの麻酔で、まだ目が覚める訳はない、何か譫言を言っているのだ。
静かに耳をそばだてれば、吐息に近い言葉がその鼓膜を震わせる。
「……コロ…して…」
桔梗は息が止まった。
「…やくそく……殺して……」
彼はただ、抜け殻のような寝顔で呟き続ける。
「オレを…殺して……」
あまりに哀れで、憎くて、桔梗は手の震えが止まらなかった。
「……ガンマ…」
ただ、彼の呼んだ名だけが桔梗を冷静にした。
「ハハン……」
壊れたレコードのように小さな譫言を繰り返す憎く愛しい唇に桔梗は初めて触れ合う程度の口づけをした。
「あの男にくれてやるくらいなら、私が貴方を殺してあげましょう、幻騎士…」
そして彼の耳元に囁く。
「そうして溶けてなくなるまで、愛してあげましょう…」
彼が育った、あの憎虐の匣の中で、永遠に。
さようなら。
End.
SPECIAL THANKS 6000 Hit!
To 日生 様
POSTSCRIPT.
最近、てぶろにリンク張ってるせいか、カウンターが早くて怖いです;;;;
さて、今回のリクエストは『幻騎士総受け』とのことでしたので、
私的に最近こっそりブームが来ている桔梗×幻騎士を軸に
白幻、柘幻、γ幻、のフルスロットで書いてみました☆←
桔梗さん好きすぎてハハン☆←
あぁいった感じの狂気を持ってそうな敬語キャラって良いですよね・・・
私的にムックは変態イメージが払拭出来ないのでアレですけどw
あ、いけない、内容にも触れないとw
桔梗さんの勝手なイメージが先行していますが、
私的に桔梗さんは白蘭様に出会うまで自分以上に強い者も美しい者も存在しないと思っていて、
白蘭様に会ってからは彼を完璧な存在として崇拝していたんです。
なのに、幻騎士に出会って不覚にも美しいと思わされてしまった。
しかも、敬愛する白蘭様が寵愛している存在。
そんな桔梗さんの胸に宿った感情こそ、愛憎。
憎み、羨むほど愛しい。
それなのに、幻騎士が最後に縋るのは神でも自分でもなく、本人よりも小さな存在であるはずのγで、
桔梗さんはそれに納得ができない。
そうして本編に続きます←
時勢的に、前回の5000HITの直前の話になるので合わせて観覧頂ければと思います。
あと、本館の小説内によく登場する、γと幻騎士の『約束』に関しては
コチラが発生源の小説なので、一応。
キリ番ゲッターの日生様のみ、お持ち帰り可です。
こんなで宜しければお持ち帰りください;